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大腸がんは見つかったら必ず手術?早期大腸がん(T1)で「腸を残せる」可能性とリンパ節転移リスク
「大腸がん」と告げられたとき、多くの方が真っ先に思い浮かべるのは「お腹を大きく切る手術」「腸を全部取られるのでは」という不安だと思います。しかし実際には、見つかった段階によって治療の選択肢は大きく変わります。早期であれば、大腸カメラの際に切除して腸を残せることも少なくありません。
この記事では、「どんな大腸がんなら腸を残せるのか」「なぜ手術が必要になることがあるのか」を、できるだけ分かりやすくお伝えします。私は大学病院で、まさにこの“見極め”の精度を高める研究に長く取り組んできました。その視点も交えてご説明します。
大腸がんの「深さ(T)」で治療方針が決まる
大腸がんの治療方針を決めるうえで、最も基本になるのが「がんが腸の壁のどこまで入り込んでいるか(深達度=T)」です。
- Tis/T1がん:がんが粘膜〜粘膜下層の浅い部分にとどまる、内視鏡で切除できる可能性がある早期がん
- T2がん:さらに深い筋肉の層(固有筋層)まで進んだがん
- T3・T4がん:腸の壁を越えて外側まで進んだ、より進行したがん
一般に、Tis〜浅いT1のがんは大腸カメラで切除でき、お腹を切らずに済むことがあります。一方で深く進むほど、外科手術が標準的な選択肢になります。だからこそ、「深くなる前に見つける」=早期発見が決定的に重要なのです。
早期大腸がん(T1)でも、約10人に1人にリンパ節転移がある
ここに、見落としてはならない大切なポイントがあります。T1の大腸がんでも、およそ10%にリンパ節転移(LNM)が起こることが分かっています。
リンパ節転移とは、がん細胞が腸の壁を越えてリンパ節に飛んでいる状態のこと。これがある場合は、大腸カメラで病変そのものを取り除くだけでは不十分で、リンパ節を含めた追加の外科手術が必要と判断されます。
つまり、内視鏡で切除したあとに「追加手術がいるのか・いらないのか」を見極めることが、患者さんの体の負担を大きく左右します。
課題は「念のための手術」をどう減らすか
現在の診療ガイドラインの基準は、安全を最優先する性質上、実際には転移していない方にも「念のため手術を」と判断されやすい側面があります。手術は体への負担や合併症のリスクを伴うため、本当に必要な方にだけ手術を届け、不要な手術はできるだけ避けたい――これは内視鏡医にとって長年の課題でした。
AIと病理で、転移リスクをより正確に見極める研究
昭和医科大学横浜市北部病院 消化器センター(WEO認定 国際的優良施設)で、この「転移リスクの見極め」に関する研究に携わってきました。国際的な医学誌に掲載された主な知見をご紹介します(いずれも研究段階の成果です)。
AIによる転移リスク予測
病理のデジタル画像(全スライド画像)を解析し、リンパ節転移のリスクを予測するAIを開発しました。研究では、従来のガイドライン基準よりも予測の精度が高く、「念のための手術」を約2割減らせる可能性が報告されています。AIは病理医の判断を置き換えるものではなく、客観的な“もう一つの根拠”として補う役割が期待されます。
病理の「顔つき(分化度)」の見方
がん細胞の“たちの悪さ”を示す分化度の評価方法を検討した研究では、ごく一部に混じる低分化な成分も見逃さずに評価する方法が、転移リスクの判定により有用と報告されています。
大きさではなく「中身」で判断する
「小さいがんなら安心」と思われがちですが、10mm未満の小さなT1がんでも転移率は大きいものと変わらないことが分かっています。腫瘍の大きさではなく、病理所見に基づいて追加手術の要否を判断すべきだと報告されています。
T2がんでも個別に評価する
より深いT2がんについても、リンパ管への広がりなどのリスク因子を評価することで、治療選択を一人ひとり個別に検討する研究が進んでいます。
「腸を残す」ために、当院が大切にしていること
こうした研究に長く携わってきた経験をもとに、当院では次の考え方で診療にあたっています。
- 早期発見を最優先:腸を残せる可能性は「早く見つかること」から始まります。AIを搭載した大腸カメラで、小さな病変・平坦な病変の見落としを減らす検査を行っています。
- 過不足のない判断:万一がんが見つかった場合も、病理所見をふまえて「内視鏡で取れるのか」「追加の手術が必要なのか」を丁寧に評価し、高度な治療が必要な際は連携医療機関へ速やかにご紹介します。
- 苦痛への配慮:鎮静剤やCO2送気を用い、できるだけ楽に受けていただける環境を整えています。
こんな方は、早めに大腸カメラのご検討を
- 健診の便潜血検査で陽性と言われた
- 血便・便が細い・便通の変化が続いている
- 40歳以上で一度も大腸カメラを受けたことがない
- ご家族に大腸がんやポリープの方がいる
「腸を残せるかどうか」は、早く見つけることから始まります。気になる症状がある方は、どうぞお早めにご相談ください。
参考文献(著者として関与した研究)
- Takashina Y, et al. *Dig Endosc.* 2023;35(7):902-908.(T1大腸がんのリンパ節転移をAIで予測)[PMID: 36905308]
- *Surg Endosc.* 2025.(病理画像+臨床データを統合したAI転移予測)[PMID: 40903618]
- *DEN Open.* 2024.(T1大腸がんの分化度と転移リスク)[PMID: 38155928]
- *World J Clin Cases.* 2021.(小さなT1大腸がんの特徴)[PMID: 34904078]
- *DEN Open.* 2025.(T2大腸がんの転移リスク因子)[PMID: 39618508]
文・院長 髙階 祐輝(日本消化器内視鏡学会 専門医)/研究歴:昭和医科大学横浜市北部病院 消化器センター
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。